山本 倫子 (やまもと みちこ)
<経歴>
1931年、大阪生まれ、三重県名張市在住。
詩集『デザイン・ノート』、『秋の狂』、『生きやしてもうてる』、『以後無音』、『落花相殺』、『秋の蟷螂』。
日本現代詩人会、日本詩人クラブ、「青い花」、各会員。
「コールサック」に寄稿。
<詩作品>
俄然、日捲りが……
今日の期待は
お尻に花をつけたままの白イボきゅうり
降り過ぎの大雨にも
花は落さず腐らず大きくなる
たった一日で幼いみどりの実が
白さを増してトンガリイボを強くする
赤ちゃんは
明後日退院しますと孫娘から電話があった
一か月早く生れて
保育器に入っていた曾孫になる坊や
行って対面することは出来ないけれど
次々パソコンで送られてくる写真では
しっかりほ乳ビンを銜えている
息切れしながらも日を継いでゆくたのしみ
先ずは明朝確実に手にする白イボきゅうり
それとは比べものにならない動き出す存在
それにしても日めぐりの早いこと
いつのまにか日捲りの前に
曾ばあちゃんがどっかり座っている
引いて明るく
あと何年?
まだ何年?
仮に百歳のときの明解な答は
今を基点として足し算でも
引き算でも出せるが
積み重ねる足し算のあしあとの明るさより
消去法の引き算のあと明るさの方が
わたしの明度はより明快である
誤魔化せない手の甲 首筋の皺のように
増える一方の醜さ
足あとには影もつき
外見だけでなく生きるための
欲も足さねばならない
今から百歳までの芥・埃・塵の数量
引き算が出来る余力がある間に
引かねばならぬ
時刻が消えてゆくように
目に見えないほどの消し方で
なるべく ゆっくり おだやかに
いのちは すこしずつ 引かねばならぬ
輪郭がなくなり
まつわる存在が消えても
引き算のあとの動かぬ明解な答を
空とすれば
それを明るい宙の奥深くとけこませたい
引いて明るく引いたあとの空を明るくしたい